実は、私の母はミシンを仕事の道具にしていました。父は裁断です。母は生まれたばかりの私をおんぶしながら、ミシンを踏んでいたそうです。裁断くずの中で転げ回って遊んでいた記憶もあります。ついでにいうと祖父は浅草の畳屋でした。そんな環境に暮らしていたので、ミシンの音はとりわけ親しみやすく、つい和んでしまいました。
脱線ついでに、思い出されるのはスタジオジブリの「紅の豚」という映画。そこに描かれたミラノの女性ばかりの飛行艇工場です。もちろん、現代のファクトリーは、映画のような雰囲気とは全く違うものですが、工場長の「女はよく働くよ」という言葉と、実に凛々しい女性達の表情が、この工場で働く女性達にも共通するものがありました。男の方は、というと、真面目な顔で、しかつめらしく製品を眺めながら裏返した後で、こちらをちらっと見て、ニヤッと笑ったりするあたりが、かっこよかったな。 |
 おおよその部分ができあがると、それらを縫い合わせるのは、かなり特殊な機械達です。ガエルネのブーツを手にした人なら、どのブーツも表の革や、裏地、何重にもなった靴底などが、複雑に重なるように縫い込まれていることにお気づきでしょう。このように、厚い革をいっぺんにいくつも合わせて縫うのは、かなり力のいることです。そのあたりは、きっと昔は畳屋のオヤジよろしく、はちまきして太っい針で肘を使いながら縫い合わせていたことと思うのですが(多分)、今では、専用の機械がそれをやってくれます。 |
でも、機械がやるといっても、それは、あくまでも特殊なミシンといったようなものであって、右に材料を入れれば、左から製品がでてくる、というようなものでありません。その機械の達人が、ひとつずつ、慎重に作業を進めています。靴底や、いくつかの部品は接着剤も使います。これも、ひとつずつ刷毛で作業されます。でも、この接着剤、あまりシンナーくさくなかったな。
こうして、ラインを流れながら、ブーツはひとつずつ、というよりちゃんと一足分ずつできあがっていきます。接着剤の乾燥が終わったものから、最後の仕上げにかかります。余分な革を取り除き、何度も成型し、丹念な仕上げを施されて、最後にもう一度金具類が、全て取り付けられて、検品係の人の元にたどり着きます。ここでまた、さっきのエルネストに会いました。やはり製品の出来具合が気になるようです。でも私がカメラを向けると、自分ではなく、仕事をしている職人達を撮れといって、どこかに行ってしまいました。 |
こうして、みなさんが手に(足に?)しているブーツは何人もの手を経て、実に丁寧に作られていました。ブーツは決して、安い商品とはいえません。それに、一度使ったら捨ててしまうような消耗品でもありません。足になじんだブーツは、たとえ少しぐらい壊れても、修理して使っていきたくなるものです。そのためにガエルネでは、リペアパーツも充分に用意しています。もちろん壊れたら買い換えてくれた方が、会社は儲かるはずです。でも、せっかく丹誠込めて作ったブーツが気に入ってもらえるのであれば、修理して永く使い続けて欲しいというのが、職人達の願いでしょう。それでも、激しいライディングの後に、寿命がつきたなら、もう一度ガエルネ製を手にしてもらえるという自信があるのだとも思います。 |